プロダクションノート

新人監督による素晴らしいシナリオ

「すべての人が共感できる映画、頭よりハートが先に反応するような映画を作りたいと思いました」そう語るのは、本作で遅咲きの映画監督デビューを果たしたチェ・ソンヒョン。脚本家として映画『王の涙 イ・サンの決断』(14)で評価はされているものの、映画監督としては全くの新人。だが今回制作陣、豪華キャスト陣たち共に口を揃えるのは、「シナリオが素晴らしかった」ということ。本作の脚本を執筆したのも、もちろんソンヒョン監督自身だ。脚本を一読し、すぐに制作を決断したというユン・ジェギュンは、「最近読んだシナリオの中では、一番完成度の高いシナリオだった」と言い切る。
その思いは主演のイ・ビョンホンも同じ。「素晴らしいシナリオで、読んでいるうちに自然と笑ったり、泣いたりしてしまいました。日常に近い物語を描いているので、より感情移入しやすかったのかもしれません。監督が新人ということは問題にはなりませんでした」

イ・ビョンホンを筆頭に、実力派のキャスティングが決定

韓国を代表する俳優の一人が主演にキャスティングされたことで、映画化への動きは一気に前進する。「この映画で一番重要だったのは、何よりもまず“演技力”でした。とにかく芝居が上手い俳優達とこの映画を作らなければと思い、シナリオをイ・ビョンホン、ユン・ヨジョン、パク・ジョンミンの3人に送ったんです」(ユン・ジェギュン)ビョンホン同様、シナリオを読み出演を快諾した2人。特にサヴァン症候群のジンテを演じるパク・ジョンミンにとっては相当にハードルの高い役になることが予想されたが、「シナリオを読んですぐにこの役、作品をやりたいと思ったんです。悩む必要は全くありませんでした」と頼もしい。実際、撮影の3か月前からピアノの猛特訓を始めたジョンミンは、同時にサヴァン症候群についても徹底的にリサーチを開始。独特の手の動き、しゃべり方、視線の泳がせ方……そのすべてに、サヴァン症候群の特徴をリアルに落とし込む。加えて衣裳、メガネ、カバンなど小道具ひとつひとつにまで積極的に意見を出し、ジンテというキャラクターの完成度を高めていくことに努力を惜しまなかった。

3人の俳優による神がかった演技のアンサンブル

撮影が始まると初々しい新人監督は、「これが演技というものなのか!」と日々感嘆の声をあげることになる。ことビョンホン、ジョンミン、ヨジョンの3人が揃うシーンが始まると、監督の予想をはるかに上回る神がかった瞬間が訪れることも日常だった。映画『インサイダーズ/内部者たち』(15)では暴力でのし上がってきた男、『MASTER/マスター』(16)では極悪非道な詐欺師、『天命の城』(17)では和平を望む大臣など、全くタイプの違うキャラクターを鮮やかに演じ切り“カメレオン俳優”の名をほしいままにしてきたビョンホンだが、本作では骨太で重厚感のある芝居をあえて脱し、どこにでもいそうな人間味にあふれたジョハへと変身。「何の計算もなしに、カメラが回った瞬間に自分を役に預けて演技ができました。この作品での演技が僕の芝居の根本じゃないかと思うほど、楽しい撮影でした」(ビョンホン)ジンテのことを露骨にうるさがりながらも、いざという時は一番の味方になってくれる頼りになる兄。そんなある意味“ツンデレ”なジョハを、時に絶妙なアドリブ芝居も混ぜ込みながら演じてみせる。笑いと感動を牽引する、ビョンホンの存在感は圧巻だ。
本作を機にさらに注目が集まりそうな若手俳優=パク・ジョンミンも、ビョンホンを相手に一歩も引かない名演で応戦。何もかもが特別なジンテというキャラクターに完全に入り込み、まるで役が憑依したかのような熱演を披露する。「ジンテは世の中とコミュニケーションをとるのは苦手だけど、自分の中で世界を作っていける人物だと思います」(ジョンミン)と、役への理解と愛情を日々深めていった。
そして2人の母として最後の瞬間まで輝きを放つのが、韓国が誇る大ベテラン女優=ユン・ヨジョン。「ヨジョンさんは50年の女優人生の中で、初めて慶尚道の方言に挑戦されました。でも現場に来た時はその方言は完璧。映画に対する姿勢のすべてが素晴らしい方ですね」(ソンヒョン監督)

一流のスタッフ陣が集結

キャスト陣に負けず劣らず、一流の実力派メンバーが揃ったスタッフ陣。『バトルオーシャン 海上決戦』(14)、『トンネル 闇に鎖された男』(16)など、斬新でエッジのきいたカメラワークが高く評価されている撮影監督=キム・テソン。本作でもタイトなアングルとクローズアップを使い分け、かつワイドレンズで俳優達の細かな芝居までキャッチ。またギャラリーの多い新村、大学路などのロケ現場では、標準レンズより画角の広いアナモフィックスレンズを使用。人物に集中しながらも、臨場感のある現場の雰囲気を収めることに成功している。美術監督は『コンフィデンシャル/共助』(17)や『黒く濁る村』(10)などを手がけたイ・テフン。リアリティとキャラクターの特性を両立させるディテールまでこだわり抜いた美術は、本作でも健在。物語の重要な舞台となるインスクの家は、掃除場所の選定から内部の空間デザインまで生活感重視でみっちりと作り込み、長い時間経過を感じさせる家の内外の風景にもこだわりを見せた。
音楽がもうひとつの主役とも言える本作で、ショパン、チャイコフスキーというクラシックの有名楽曲から、タイトルにもなっているドゥルグックァの名曲「それだけが僕の世界」まで、幅広い音楽を選曲し映画のトーンを決めたのが音楽監督=ファン・サンジュン。(『華麗なるリベンジ』/15、『コンフィデンシャル/共助』/17)キャラクターたちの繊細な感情を雄弁に語る多彩なサウンドは、感動のヒューマンドラマをより一層豊かにしてくれる。